武尊塾の考え
私は、1974年以来柳心流空手道を生活の基盤にして、「戦うとはどういう事か、今習っているのは、空手か?格闘技か?」といった、素朴な疑問を持ちながら、ややもすれば惰性に流されそうになる自分を叱咤し、今に至りました。1987年に奈良に道場を開き、「武尊塾」の名前も、2007年の道場開設20年を契機に柳心流最高師範柳井先生からいただき、以来十年以上の歳月が流れました。
柳心流の教えである「実戦」を忠実に守ろうとすれば、けが人が続出するであろうし、下手をすると、大けがをする恐れがあることから、道場内の試合も、通常のフルコンルールで行ってきました。 ところが、他流派の試合に出場させるようになって、出る試合出る試合、ことごとく負けるのです。「どうすれば勝たせる事が出来るのか」これが、ずっと頭から離れずにいました。そこで、私どもの稽古している技は、フルコンルール上反則技ばかりで、試合では使えないものだと気が付いたのです。そのため、柳心流の真の「実戦」武術としての技、その奥義である、「梃子の応用」、「円が基本の動作」「急所への攻撃」を秘技、裏ワザとして残しながらも、近年はフルコンルールによる試合に対応するため、フルコン系空手道場の稽古を分析し、効果的に積極的に取り入れることにしました。
ただし基本動作、考え方の根本は、柳心流を引き継いでいきたいと考え今に至っています。
どの武道でも礼儀作法やメンタルは鍛えられますが、特に空手を習うことでこれらに加えて肉体的にも強くなることができます。しかし、空手を習い始めたからといって直ぐに強い子供になりません。組手を通して負けることの悔しさを知ることで忍耐力と強い精神力が身についていきます。保護者の皆さんからすると、強い子供に育ってほしいのだと思いますが、あまり期待しすぎずに、とにかく続けさせるように励ましてあげてください。「継続は力」となります。
空手を習いだしてから、いじめられなくなったということをよく聞きます。
空手を習っているというだけで、一目置かれるようになったのだと思います。そう思われることが、また自分の意識を高めより強く、より正しくならねばという気持ちにつながってくるのだと思います。しかしながら、「生兵法は怪我の元」をしっかりと分からせておくことも必要です。加えて、弱い者いじめをしている者に対して、自分の仲間を守るためにもしっかりと、「やめろ」と意見のいえる人になってもらいたいと思っています。負け犬の遠吠えにならぬように、空手の修行を通じて、情緒を安定させ、正義感を貫ける精神力で、力に訴えることなく相手を制することが出来るようになってもらいたいのです。
「空手に行くのを嫌がるようになりました」よくあるご意見の一つです。
空手を続けるうちにだんだん行くのが嫌になってしまうことがあります。実を言うと私もそのうちの一人で、飽いてきたり、組手が怖く逃げたい気持ちになって、行くのが嫌になってしまったことがありました。そんな時は、思い切って休んでしまいました。気持ちを切り替えるための時間稼ぎをしました。そして、負けん気が出てきてから、また稽古をしだしました。それでいいのだと思っています。
サッカーや野球等の団体競技では、練習試合などいろいろなバリエーションがあり、習っていても楽しいはずです。楽器なら何かの曲が弾けるようになり、楽譜が読めるようになるなど目に見えてステップアップしていきます。また、サッカーならドリブルの技術や無回転シュートなど、わかりやすい目標がありその目標に向かって練習を積み重ねていきます。団体競技ならではのチームメートとの会話もきっと楽しい事でしょう。
しかし空手はどうでしょう。わかりやすい目標といえば黒帯を取ることぐらいで、型は一度覚えてしまえば大きな変化はありません。ひたすら基礎を繰り返し、型をしても、ミットを打っても所詮、個人稽古なので余程の心構えと、一つ一つの意義と、上達したという実感が見出せなければ、嫌になって飽きてしまいます。それをひたすら続けていくわけですから、子供にはとても辛く面倒に感じてしまいます。また、級が上がったからといって自分が強くなった実感があるかといえばそうでもありません。これも、後々考えれば確実に上達していますし、強くなってはいるのですが、披露する場も無かったらなんのためにやっているのか分からなくなってしまいます。
辛い修行に耐えぬいたからこそ大人になった時に忍耐力が身についていたり、自分を守るための護身術が身についていたりします。空手を未来への投資だと考えることが出来れば素晴らしいのですが、それを子供に教えるのはとても難しいですし、理解できるとは思えません。
そのためか、黒帯になる前に辞めてしまう人はとても多いです。やめて大人になった人たちも時々道場に顔を見せてくれて、その話題になることがあるのですが、「あの時辞めなければよかった」と言っている人が大半です。「最低でも黒帯はとっておけばよかった」と言っています。ですから、子供が辞めたいと言ったら最低でも黒帯だけは取らせるべきだと私は思います。そこまでをひとつの区切りとし、日々の稽古の中に自己研さんさせ、身近な目標の達成感を感じさせられるように私自身、工夫をしなければならないと思っています。
野球、サッカーなどと空手を同時期に習い、練習会場のはしごをする子供も見受けられます。
いろいろなスポーツの可能性を求めることも、視野を広める意味で大事な事です。やってやれないことはないです。しかし、成長期の子供の心も体も出来上がっていない時期に、集中力や疲労回復の面で中途半端になってしまわないか危惧します。私としては、やはり空手をメインに考えてもらいたいと望むところですが、楽しさ、面白さを比べるとゲーム性のあるスポーツは捨てがたいです。欲張らず、ほどほどに心身ともストレスを溜めることなく、徐々に持久力を高めて、相乗効果を上げていけるようにしていくようにしていってもらいたいと思います。保護者の皆さんは、そのあたりの見極めをしっかりとしていただき、子供さんを励ましてあげてもらえればと思います。
空手ならではのしんどい修行を一緒に汗をかいてやっているという一体感や組手時に身を任し、切磋琢磨したからこそ芽生える連帯感・信頼感は、他のスポーツで得られる仲間意識とは、別次元のものとして感じてもらうことができるのではないかと思っています。
空手がスポーツではないとやがて気づく時がきっと来ると思います。その時まで稽古に精進してもらいたいと思います。
空手を通じて全国に名を広めたい、世界に羽ばたきたいと思われる方もいらっしゃいます。
当塾の組織力や稽古では、そこに行きつくまでの高いハードルがいくつもあります。私自身、その志をかなえられるよう誠心誠意応えなければならないと痛感いたしております。将来においてこの武尊塾が、空手界の右翼に位置できるように、指導者も塾生も保護者の皆さんもが、一体となって志を一にして協力し精進し、みんなでこの塾の名を高め、強くなっていく喜びは他では得難いものとなるのではないでしょうか。
子供の持てる潜在能力を存分に発揮させて、将来の夢と生きがいをサポートしていけるように、これからも全力で指導に取り組んでいきたいと思います。私の最大の願いは、私と空手を通じてご縁を持つことが出来た子供さんの一人でも多くの人が信、義、仁を己の芯に持つ、情の熱い大人に育ってもらうことなのです。
武尊塾塾長 川口力三
